タイムマシン:ニールパートの想い出
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タイムマシン:ニールパートの想い出

ニールのドラミングへの計り知れない想いを胸に、彼のタイムマシンを再訪する旅にでかけましょう。

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長いロックミュージックの歴史において、『世界で最も先進的なドラマー』とされてきたニール・パートと同様の評価を得るプレイヤーはそう多くはありません。ニールのドラムテクニックは比類ないものであり、また一方で独特な世界観を表現する偉大な作詞家でもあります。彼はRUSH(ラッシュ)と共に40年以上にわたって世界の音楽史を形成してきました。2020年初頭、世界がニールを失った時、この世界は同時に類稀なる音楽的インスピレーションを失いました。ニールの計り知れないドラムに対する貢献に敬意を表し、私たちは彼の「タイムマシン」を再度訪ねる旅に出たいと思います。

トレードマークとしてのドラムセット

ニール・パートの「Time Machine Drum Kit」は、世界で最も有名なハイブリッド・ドラムセットのひとつです。このセットはドラムというより、もはやひとつの芸術作品と呼ぶ方がふさわしいかもしれません。

カナダの著名トリオ・バンドRUSHのドラマー、ニール・パートは、よく見られる通常のドラムセットと比較して、常に大型のドラムセットを使っていました。長い年月をかけて、オーケストラ・パーカッションをはじめ、アコースティックのサウンド・エフェクトなどを取り入れ続けた結果、そのセットはさらに大きなものへと変化していきました。そして、この大型ドラムセットはニール本人、バンドRUSH両方のトレードマークとなりました。

1980年代になると、ニールは表現力をさらに広げる必要性を感じたことから、新たな挑戦としてドラムセットに電子パーカッションを組み込むようになりました。この新しいドラムセットは、アナログとデジタルのドラムが効果的に組み合わされ、次第に「ハイブリッド(融合)キット」と呼ばれるようになりました。その後、2001年の一本の電話をきっかけに、ニール・パート本人、ドラムテックのローン・ウィートン、そしてローランドの長いリレーションシップが始まったのです。

 

第一世代

当時、ニールのキットには、第1世代のV-Drums音源であるTD-10とV-Padが使われていました。 2002年のVapor Trailsツアーのドラムキットからこれらが組み込まれ、ニールはこれを巨大な回転式ドラムセットの「ダークサイド」と呼んでいました。この音源モジュールを駆使したコンサートで、ニールはRUSHの楽曲からのサウンドをライブで再現することに成功しました。ニールはV-Drumsで演奏中に一部のサウンドをトリガーするだけでなく、ドラムソロでも積極的にフィーチャーしていくようになります。

当時、電子ドラムについて、ニールは次のように語っています。「まず、今ある全ての最新の電子ドラムを徹底的に研究、試奏したんだ。その結果、RolandのV-Drumsに最終的に落ち着いたんだ。V-Drumsのパッドはとてもセンシティブで、弾力性があるので演奏していて一番の満足感が得られた。サウンドはどれもいい音だし、音色変化幅も広いので色々な演奏表現ができる。どこをとっても便利で使いやすくて、何よりも重要なポイントだけど、演奏していて本当に楽しいんだ。」

ニールの遊び心に溢れたアプローチは、RUSHのライブのあらゆるところで見ることができます。ステージ上におかれた巨大洗濯機から、ユーモラスなイントロビデオまで。バンドが創り出す最高のミュージシャンシップと、遊び心との絶妙なバランスをファンはとても楽しみました。

 
ラッシュの険しい道

次世代のV-Drums音源となるTD-20が発表され、すぐさまローンとニールは、RUSH R30ツアー用にドラムセットのアップグレードを開始しました。楽曲やソロに電子ドラムをさらに取り入れていく彼らの旅はまだまだこれからです。

ドラムの専属テックスタッフであるローンは、ライブ中はドラムセットの総合管理を担当していました。ドラムセットのすぐ後方左、ステージ上ではベーシスト/ボーカリストであるゲディー・リーの後ろにローンの「機材オフィス」と呼ばれる空間があり、彼自身、ステージ中はここに身を潜めてコンサートを見守っていました。ローンの「機材オフィス」には、2つのTD-20ドラム音源モジュール、A-110ラックマウントMIDIディスプレイユニット、XV-5080、ライン・ミキサーなどを備えた大型のラックが組み込まれていました

「アコースティック・ドラムのダイナミズムと、電子ドラムのオーケストラ並みの膨大なサウンド。これらサウンドの融合なんだ」 
ニール・パート

ニールの演奏するパッドは、音源モジュールに直接その信号を送り、さらにMIDIインターフェイスを介して他の音源をもコントロール。そしてそれらすべてのオーディオ出力は、会場のメインミキサーとサブ・モニターミキサーに出力されていました。

設定が複雑そう?そうかもしれない。

耐用性については?

ローンは、このセットアップを信頼しており、次のようにコメントしています。「ラック内のギアは、10年以上に渡る長い時間のツアーの試練に耐えてきたけど、一度も故障することはなかったよ!

タイムマシン・ハイブリッド・キット

Time MachineとClock work Angelsのツアー用に組み上げた「Time Machineハイブリッド・キット」は、スチームパンクをテーマにデザインされた最高のドラムセットとなりました。ドラム音源は、SuperNATURAL技術を搭載したローランドの第3世代V-Drumsを採用し、RUSHのライブにおいて、より速く、より正確で、そしてよりダイナミックなトリガリングを可能にしました。

「Roland V-Drumsを最初にセットアップしたのは、2001年のVapor Trailsアルバムのレコーディング中だった。」ニールは振り返ります。 「その後、長年かけて続けてきたRUSHのツアーにおいて、V-Drumsは僕のドラムソロになくてはならない象徴的な存在になり、それどころかRUSH全体のサンプルまでもトリガーするようになったんだ。」

ニールのような先駆的なプレイヤーにとっては、楽器や演奏の固定概念に囚われることなく、常に新しいアプローチを受け入れる柔軟性と発想力が重要になります。ニールは生涯を通じて、自分ができることを常に広げていきたいと望んでいました。そのために、ニールはいままでのマッチドグリップだけでなく、レギュラーグリップもスタイルに取り入れたり、RUSHを続けながらドラムレッスンも行うことを約束したのは有名な話です。RUSHにおける「ハイブリッド・ドラム」での演奏表現の拡張に対する挑戦は、ニールの絶え間ない成長への想いをまさに反映していました。

ニールに今までのドラムセット遍歴を振り返ってもらうと、「2004年の30周年記念ツアーで使った後、Snakes and Arrowsアルバム制作と、2006年、2007年、2008年のツアーでV-Drumsを使ったんだ。(Rush in Rio、R30、Snakes and ArrowsのライブDVD/CDにてその様子を見ることができます)。そして2010年のTime Machineツアーでも活躍してくれてる。長いこと使ってて感じることだけど、V-Drumsは、タッチ、音質、多様性など、年々新しい進化している。演奏するのが楽しいのはもちろん、こういったV-Drums自体の進化を通じて、自分のパーカッションワールド全体がますます創造的になっていると感じるよ。」

ニールのインスピレーションはこれからも続く

「ニール・パートのドラムガイド」と呼ばれるカナダ放送協会のビデオ収録で、ニールは自身の独特なドラムセットを視聴者に細かく説明し、その中で次のように語りました。「アコースティック・ドラムのダイナミズムに、電子ドラムのオーケストラ並の膨大なサウンドを融合させる。アコースティックもエレクトリックも、どちらも自分の演奏表現にとって大切なサウンドパレットのひとつなんだ。」

ニール・パートはまさにワンアンドオンリーな存在です。ドラマーとしてのパワー、正確さ、創造力、高い演奏技術が伝説的なのはもちろん、彼が作った歌詞は、数え切れないほどのリスナーの想像力を掻き立てました。私たちは幸運なことに、彼がRUSHで残した数々の名演をいつでも聴くことができます。ぜひ多くの方に、ニール・パートという伝説的なドラマーが生み出した素晴らしい作品の数々に触れていただきたいと思っています。Fly by Night、ニール。

Darren Schoepp

Darren is Percussion Product Manager for Roland Canada. He loves motorcycles, loud drums, and the great outdoors.