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Roland Engineering: V-STAGE  

Rolandが楽器の名前に「V」を冠する時、それは特定の美徳を体現していることを意味しています。ここではV-STAGEのエンジニアリング・プロセスをご紹介します。

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歴史的にRolandは、ヴァーチャル、ヴァリアブル、ヴィンテージ、ヴァンガードなど、特定の美徳を体現する革新的な楽器の名称に大文字の「V」を使用してきました。V-STAGEは、その伝統を受け継ぐ最新作です。4種類のサウンド・エンジンと明瞭なワークフローを備えたこのシリーズは、音楽の一瞬の輝きを逃さず演奏に集中することができます。V-STAGEは技術的および設計上も多くの革新的な進化を成し得ています。チームリーダーである松永 修一が、V-STAGEのエンジニアリング・プロセスについて語ります。

Manelli Dario,
Shuichi Matsunaga,
Yasuyuki Fuke,
Chihiro Horiuchi (L-R)
ビジョン

エンジニアリングの観点から見V-STAGEの当初のビジョンは、どのようなものでしたか?  

最高のステージキーボードを作るというビジョンもと製品の企画がスタートしました。
私たちはFANTOMというフラッグシップシンセサイザーをラインナップとして持っていますが、ステージキーボードというまた別の観点でのフラッグシップキーボードを作れないかと考えました。
音源やシステム、構造などをフラッグシップに相応しいものにするには、どういったように作るかという所から開発が始まりました。

サウンド・エンジン

V-STAGEの4つの異なるサウンド・エンジンについて教えてください。どのように開発したのですか?

ご存知の通りV-STAGEには専用のサウンド・エンジンが4基搭載されています。オルガンには、Rolandの伝統的なVirtual Tone Wheel音源を使用しています。FANTOMに採用されているVirtual Tone Wheel音源がベースですが、FANTOMにはUPPERの1パートしかありませんでした。V-STAGEではUPPER/LOWER/PEDALの3パートが使えます。また、Tone Wheelに加えてトランジスタとパイプオルガンを追加しています。音源部にはオルガン専用のリバーブとディレイが含まれているので、TOTAL FXを使用せずにオルガン・サウンドに残響を追加できます。

オルガンパートのロータリー・エフェクトも全面的にリニューアルしました。これは、従来のロータリーを改良しただけでなく、新しいアルゴリズムを使用して実際の機械の動きをシミュレートしたモデリングを行っています。よりリアルなロータリーを再現するとともに、新しいパラメーターも追加しました。

Inside V-STAGE keyboard

「私たちは、ステージキーボードというまた別の観点でのフラッグシップキーボードを作れないかと考えました。」

回転による音の変化を、音量やピッチの変化だけではなく、多くの複雑な反射音の合成によって再現しているため、初めて実物に近い「ワシャワシャ」感のあるサウンドが出るようになりました。

アコースティック・ピアノのパートには、RD-2000から採用しているV-Piano Technologyを採用。今回はV-STAGE用に新しいFELT PIANOの音色もモデリングしています。FELT PIANOは現代の音楽シーンで広く使われており、従来のグランド・ピアノとは異なる魅力が活きるステージに適しています。

エレクトリック・ピアノのパートには、改良されたSuperNATURALサウンド・エンジンを搭載。基本的な改良に加え、ユーザーが調整できるパラメーターを見直し、エレクトリック・ピアノ専用のエフェクトを追加しました。

これは単なる複製ではなく、エレクトリック・ピアノのアップデートです。
例えば、従来のエレクトリック・ピアノでは、構造的にソフトな音を出すのが難しいのですが、V-STAGEを使用することで、やわらかな音の特徴を残したまま音量を上げることが可能です。プレイヤーは、SOUND LIFT機能を使用してこれを実現することができます。キーストロークによる音色変化の制御は特別なもので、他の専用サウンド・エンジンを凌駕しています。

MFXでTremoloやAmp Simを使って自由に音を作ることができ、他にもエレクトリック・ピアノ専用の様々なエフェクトを選択可能です。また、エフェクトの品質とユーザー・インターフェースも改良を重ね、より調整が容易になりました。

V-STAGE

シンセサイザーのパートには、Rolandのシンセサイザーの要となるサウンド・エンジン「ZEN-Core」を採用。V-STAGEはステージキーボードなので、その場で使い勝手の良い音色がスムーズに選べるということを重視しています。ライブでのパフォーマンスを考えると、ゼロからサウンドを作るというよりも、簡単ですぐに使えるサウンドという方向性です。

約400音色を備え、ピアノやオルガンのパートと組み合わせて使い勝手の良いレイヤー用のパッドやストリングス、ソロでも活躍するシンセリードなど幅広く搭載しています。

また、本機はZEN-Coreに対応しているため、ZENOLOGYやFANTOMなど、他のZEN-Core対応製品のサウンドを取り込んで使用することもできます。また、4種類のModel Expansionにも対応しています。Roland Cloud ManagerからModel Expansionをインストールすると、JUPITER-8、JUNO-106、SH-106、JX-8Pといった往年のRoland・シンセサイザーの音色を演奏することができます。

「Rolandの歴史を紐解き、フラッグシップにふさわしいサウンド・エンジンは何かを考え、各パートのサウンド・エンジンを決定しました。」

過去、現在、未来

これらのサウンド・エンジンは、Rolandのいくつかの異なるエンジンと新技術を利用しています。過去・現在・未来をどのように組み合わせたのか教えてください。

フラッグシップのステージキーボードを開発するにあたり、各パートに最高の音源を装備することを目標としました。その過程で、Rolandの歴史を紐解き、フラッグシップにふさわしいサウンド・エンジンは何かを考え、各パートのサウンド・エンジンを決定しました。Rolandは50年以上の歴史があり、様々なサウンド・エンジンの技術を持つ会社です。これらをV-STAGEという最新のプラットフォームに組み込むために、さまざまな工夫を施しています。

V-STAGEのユーザー・インターフェースをデザインするにあたり、どのような点に留意したのでしょうか?

このデザインの最も重要なポイントは、直感的であることです。Rolandのサウンド・エンジンでは、多くのパラメーターを操作することができます。その中でも、すぐに触りたいパラメーターや、演奏中に操作したいパラメーターを考え、スイッチやノブとして搭載しています。また、アサイン機能を強化し、簡単に各パートの操作をホイールやアサイナブル・スイッチにアサインすることができます。さらに4.3インチのカラーLCDにより、各パラメーターをグラフィカルに調整可能です。

V-STAGEでは[MENU]ボタンを押しながら各スイッチやノブを操作すると、対応するパラメーターのメニューをLCDに表示する機能もあります。普段はトップパネルにある操作子で直感的に操作ができて、本格的な音作りをしたい場合にはグラフィカルなLCDを使用しての音作りが楽しめるという両面を持っているのがV-STAGEのユーザー・インターフェースの特徴です。また、GUIとパネル上のフォントを統一することで、ソフトとハードの世界観をつなぐ共通のものとして感じていただけるように工夫しています。

V-STAGE

過去のRolandの楽器で、ビジュアル的または音響的なインスピレーションを与えてくれた製品はありますか?

ビジュアル面でのインスピレーションに関して、直接的に意識していたわけではありませんが、あえて言うならフラッグシップであるFANTOMからのインスピレーションはあると思います。また、Rolandの楽器らしくあることは十分に意識しています。見た目だけではなく、合理化されたレイアウト、使いやすさを追求した詳細な設計、パートや機能がはっきりとわかるパネルグラフィック、しっかりとしたキャラクターを持つシンプルで剛性の高い筐体など、その魅力がぎっしり詰まっています。

それはRolandの楽器に共通して流れる哲学のようなもので、全体から細部まで表現されていると思います。V-STAGEは、この楽器作りの哲学が脈々と受け継がれてきた賜物です。

「V-STAGEは、Rolandの楽器作りの哲学が脈々と受け継がれてきた賜物です。」

V-STAGE

設計上の課題

V-STAGEの設計プロセスで苦労した点は何でしたか?     

V-STAGEは今までにないラインナップなので、デザインも一から考える必要がありました。最終的なデザインは時代に左右されないスタンダードなものとなりましたが、開発の初期段階では、製品のキャラクターやデザインの方向性を見極めるために、試行錯誤を重ねました。

全く新しいデザインを作るのは困難でしたので、何度かデザインのモックアップを作り、色やサイズを確認していきました。設計プロセスで最も困難だったのは、このサイズの筐体にこれだけの機能を詰め込むことでした。

細かい点では、側面の無垢材はネジが外側から見えない構造にしたりと、ディテールのデザインにもこだわっています。各種スイッチやノブもV-STAGE用に新規に設計・最適化したものを採用しています。

「V-STAGEは今までにないラインナップなので、デザインも一から考える必要がありました。」

V-STAGEの素材は、どのように決めたのですか?

プロフェッショナルなパフォーマンスに応える堅牢で剛性の高い筐体の強度と、持ち運び可能なサイズ感から、金属製の筐体を採用することにしました。筐体に金属や無垢材を使用することで、長く愛用される製品になると思います。また、左右の無垢材は機材を運ぶ際のグリップとなるようにも考えて設計しています。

V-STAGEのI/O接続はとても充実していて、且つ堅牢です。これらすべてのフォーマットに対応するために、技術的に求められた点はありましたか?     

Rolandのフラッグシップ・モデルとして、V-STAGEにはどのようなI/Oが求められるかという視点で設計しました。もちろん、このコンパクトな筐体にこれだけ多くのI/Oを詰め込むのは大変でしたが、さまざまな要求に応えられるという事もフラッグシップ・キーボードにとって重要だと考えています。V-STAGEにはXLRなどのオーディオ端子に加え、MIDI端子やペダル端子など複数の端子を装備しており、様々なステージでの使用に対応することができます。

A-ProシリーズをUSB EXTERNAL DEVICE端子に接続して、4つのパートをそれぞれの鍵盤で演奏することもできます。また、USB-C接続も重要な機能です。本機はPCだけでなく、モバイル機器にも接続できます。これにより、配信や録音がこれまでになく簡単になります。

V-STAGE Outputs

V-STAGEのシーンはどのようにデザインされたのでしょうか。また、他のRolandの楽器とは異なるアプローチがあれば教えてください。

V-STAGEのシーンは、複数のアーティスト、社内のサウンドチーム、そしてサウンド・デザインのスペシャリストによって作成しています。シーンの主なコンセプトは、ステージ上ですぐに使用できることです。V-STAGEのスペックを誇示するのではなく、使いやすいサウンドが揃っているので、そのまま即戦力として使えるシーンが揃っています。プリセットで64種類のシーンを搭載しています。ユニークで個性的なプリセット・シーンも含まれていますので、そこを出発点として、プレイヤーが望むサウンドをカスタマイズしていくのにも役立つと思います。また、発売に合わせてRoland Cloud Managerからシーン・パックをリリースします。こちらでは更に豊富なシーンをご用意しておりますので、ぜひダウンロードしてプレイしてみてください。

V-STAGEの最も優れた機能の1つにキーベッドがあります。これはエンジニアリング・チームが特定の材料を選んだのでしょうか、それともエンジニア、サプライヤー、工場との協力で選定したのでしょうか?   

今回の76鍵モデルは、新デザインのウォーターフォール鍵盤を使用しています。これは、FANTOM 6/7で好評のシンセサイザー鍵盤を再設計したものです。トリルやスパッタ、グリッサンド、パーカッシブな演奏など、ユニークなオルガン演奏のテクニックに最適です。ウォーターフォール鍵盤ならではの演奏性を備え、軽快で素早いパッセージやパーカッシブなアタック、スムーズなグリッサンドに完璧に対応します。また、鍵盤カーブはオルガンだけでなくピアノ演奏用にも調整を行っており、ピアノ音色をより詳細にコントロールできる鍵盤となっています。

88鍵のピアノ鍵盤は、既存のRolandピアノ、シンセサイザー製品でも人気の高いハンマーアクション・ピアノ鍵盤を採用しています。今回は、ピアノやオルガン、シンセなどをコントロールするキーボードとして、鍵盤カーブの調整を行っています。また、アコースティック・ピアノとエレクトリック・ピアノで、パート個別に鍵盤カーブを調整することも可能です。これにより、複数のパートを重ねた際にもベロシティ変化を思い通りに調整することができます。

V-STAGE in case

「ウォーターフォール鍵盤ならではの演奏性を備え、軽快で素早いパッセージやパーカッシブなアタック、スムーズなグリッサンドに完璧に対応します。」

V-STAGEにおいてRoland Cloudはどのように活用できますか?また、そのために特別な何かが必要になりますでしょうか?   

V-STAGEのコンテンツを配信する場所としてRoland Cloudが使用できます。MODEL EXPANSIONや追加シーンは発売時点で無償提供されますので、ぜひRoland Cloudに登録してお試しください。また、今後もV-STAGEのコンテンツを追加提供していく予定です。

V-STAGEをデザインする過程で嬉しいサプライズはありましたか?  

嬉しいサプライズと言えるかどうかはわかりませんが、プロジェクトの開始時点から多くのことが変わりました。製品のデザインも大幅に変更されましたし、当初61鍵モデルも検討していましたが、76鍵と88鍵に集約しました。CPU/DSPシステムの数が増え、ディスプレイ表示がカラーになりました。また、開発チームには新しいメンバーを迎え入れるなど、プロジェクト当初から多くの要素が変わりました。それらが結実し、最終的に最適な結果を生み出すことができたと思います。

Ari Rosenschein

Ari is Sr. Manager, Brand Storytelling Copy and Editorial for Roland. He lives in Seattle with his wife and dogs and enjoys the woods, rain, and coffee of his region.