SP-404MKIIのように世界中に多くのファンを持つ製品のアップデート版に取り組むには、他に類を見ない要求が伴います。白土 健生、ピーター・ブラウン、そして彼らのチームは、ローランドの歴史とSPコミュニティの声を革新的なアプローチで融合させました。この2人のエンジニアが、昔からレコードとDJカルチャーに没頭していたことは、彼らの努力に信憑性を与えています。また、白土はレーベルの一員として日本でライブイベントを開催しています。SP-404MKIIの開発について2人が語る過程で、彼らがフィードバックをどのように取り入れ、MKIIの斬新な機能に活かしていったのかを紐解いていきます。
歴史と文化の融合
SP-404MKIIのエンジニアになるということは,ローランドの歴史の一部になると言ってもよいと思います。そのことはプロジェクトに影響を与えましたか?
白土 健生(以下,白土):私は,2017年の7月にローランドに中途入社しました。オリジナルのSPシリーズ(SP-202, 303, 404等) が開発されていた頃は,私はローランドに在籍しておりませんでした。しかし,90年代から2000年代にかけてSPサンプラーのユーザーの一人として,文化的な側面から大きな影響を受けていました。
過去を遡ると,私が初めてローランドのSPシリーズに出会ったのは,1999年,私が高校生の時に行ったダンスホール・レゲエのイベントでした。当時,日本ではMighty Crownを中心としたジャパニーズ・レゲエが流行しており,ダンスホールやダブのセレクター(DJ)が,曲と曲の間に観客を盛り上げるためのツール(サイレン音やピストル音の再生マシン)として,サンプラー(SP-202/303)を使っていました。また,これは日本特有の使い方かもしれませんが,バラエティ番組や舞台演劇の効果音,ラジオのジングル等多岐に使われ,ワンショット・サンプラーのスタンダードになりつつありました。
SP-404に興味を持ったきっかけは何だったのですか?
白土:2000年代,大学生だった私は,毎週のように地元(茨城県水戸市)にあるレコード店(Vinyl Machine)に通い,ダンスミュージックで使用されるサンプリングソースの知識を吸収することに生活の殆どの時間を費やしていました。当時はまだShazam(音楽検索アプリ)やDiscogs(オンライン音楽データベース)がなかったため,自らの足でレコード店とクラブを往復することで音楽に関する情報を収集し,日本の地方都市特有のジャンルレスなクラブカルチャーを体感することで様々な音楽から刺激を受けると共に,特にサンプリングをベースとしたHip Hopに非常に影響を受けました。2000年代前半に,MadlibやJ DillaがSP-303のパワー・ユーザーであることを明らかにし,また,MadvillainのMadvilliany等Hip-Hopの金字塔となるアルバムがSP-303を中心に制作されていることを知った私は,SPのビートカルチャーに深くのめり込んでいきました。
その後,Flying Lotus,RAS G,DIBIA$E,MNDSGNらが,後継機のSP-404/404sxやSP-555を使って,Low End TheoryをはじめとするLAビートカルチャーを発展させていきます。私が,彼らの形成するコミュニティを意識し始めたのは2010年頃だったと思います。 当時,『remix』や『ele-king』といった日本の音楽雑誌がLow End TheoryやBrainfeederを特集し,それらの記事の中でSamiyam,Teebs,Ras G,TOKiMONSTAなど,SP-404を使っている海外アーティストの存在を知りました。 その当時,Low End Theoryは年に1-2回ほど日本でツアーをしていて,私は何度かそのイベントに足を運んでいました。中でも一番印象に残っているのは,2012年の代官山UNITでのRas Gのライブでした。中毒性のあるサイケデリックなビートに,Sun Raの楽曲からサンプリングした音が所々に散りばめられ,まるで宇宙空間にいるような感覚に陥りました。彼の神懸かったライブパフォーマンスの衝撃は,10年経った今でも私の脳裏に焼き付いています。
MadvillainのMadvilliany等Hip-Hopの金字塔となるアルバムがSP-303を中心に制作されていることを知った私は,SPのビートカルチャーに深くのめり込んでいきました。ー白土 健生
Takeo Shirato
熱心なSPコミュニティ
SP-404の影響力を示す例はどこで見てきましたか?
白土:SNS(インスタグラムなど)の発達により,SP-404(#SP404)を使ったカジュアルでインパクトのある投稿がここ5~6年で劇的に増加し,世界中でSPコミュニティが形成されていきました。また,サブカルチャー(アンダーグラウンド)からメインストリームに移り変わっていく過程をリアルタイムで見てきました。
このように,SPシリーズは音楽シーンに多大な影響を与えてきましたし,私もその影響を非常に強く受けてきました。したがって,SP-404MKIIの開発者としての私の使命は,単に機能追加や使い勝手を向上させるだけでなく,SPが培ってきた歴史・文化を継承し,私自身の経験も生かして次世代のビートカルチャーに進化させることだと考えました。
コミュニティを深く知ることで得られた機会や課題はあったのでしょうか?
白土:私は,開発の初期段階で,世界中のSPコミュニティにあるほとんど全ての投稿をチェックしていきました。幸いにも,SPコミュニティは非常に活発で,次の新製品を期待した機能追加や改良の要望が投稿されていました。SP-404(2005年)の発売から16年経過していたこともあり,コミュニティには膨大な情報が存在していました。
私は,レコード店の棚の端から端までレコードを掘るように,ユーザーコミュニティでSPユーザーの要望をリストアップし,それを分析して,SP-404MKIIの製品仕様に落とし込んでいきました。
また,ピーター・ブラウン(プロダクトプランニングマネージャー)と協力して,SP-404のパワー・ユーザーに直接インタビューし,製品仕様の方向性に間違いがないことを何度も確認し,設計をスタートしました。これは難しいことではありませんでしたが,設計のスタート地点に辿り着くまでに多くの時間を費やしました。
私たちの最大の挑戦は,SP-404SX/Aのシンプルさを優先させながら,ユーザーに新しくエキサイティングな機能を開発することでした。ーピーター・ブラウン
Peter Brown
白土:最も苦労したのは,SP-404の基本的なUIと直感的で使いやすいワークフローを維持することでした。機能が増えれば増えるほど,ワークフローは複雑になりがちですが,これまでのSPのように直感的で使いやすい操作性を実現するために,アクティビティ図やUIシミュレーターを使いながら,開発メンバーやピーターと何度も議論を重ねました。また,出来上がったプロトタイプに対して,ローランド社内のSPエキスパート(Jay Ybarra, PJ Bridger)からフィードバックをもらいながら,改良のサイクルを回すという開発プロセスを進めました。
シンプルさの優先
ピーター・ブラウン(以下,ピーター): SPでのビートメイクは,”サンプリング/リサンプリングした音にエフェクトをかけてビートを創る” という信じられないほどシンプルで単純です。
このシンプルさ故に,ユーザー自身で工夫することで,想像力豊かなビートを作ることができます。
競合他社のサンプラー製品は,非常に特殊な(時には複雑な)ワークフローやシステムを持っていて,コンフリクトが発生することがあります。私たちの最大の挑戦は,SP-404SX/A※のシンプルさを優先させながら,ユーザーに新しくエキサイティングな機能を開発することでした。
スタンド・アローン・サンプラーとしての価値を最大限に高めるため,過去に遡ってサンプリングが行えるスキップ・バック・サンプリングの追加など,より簡単なリサンプリングができるように,プロセスの改善を行いました。
また,SP-404SX/A※では,サンプルを耳で聴きながらリアルタイムにチョップしていましたが,SP -404MKIIでは,リアルタイムのチョップとOLDEディスプレイで波形を見ながらチョップが行えるように,どちらのメリットも上手く活かしたユーザーインターフェースになっています。 ディスプレイを見なくても,基本的な操作を素早く行うことができますが,OLEDディスプレイは,より詳細な編集を行いたいユーザーにも対応しています。
※SP-404Aは国内未発売モデルです
OLED(有機ELディスプレイ)
有機ELディスプレイで何ができるのか?
白土:SP-404SX/A※のサンプリングワークフローは非常に簡単で,お客様からも高い評価を頂いています。しかし,サンプルを取り込んだ後の編集は,耳で聴きながらスタート/エンドポイントを設定したり,サンプルを複数コピーして切り分けたりと,高度なテクニックが必要です。そこで,そのような技術を必要とせず,より多くのお客様に手軽に楽しんでいただけるよう,波形編集(スタート/エンド/ループポイントの設定),ENVELOPEポイントやCHOPポイントの設定,OLEDを使ったパターン編集を可能にしました。
※SP-404Aは国内未発売モデルです
当初,ディスプレイをRGBカラー液晶,TFT,OLEDのどれにするか悩みました。SPはパフォーマンス重視なので,視認性と応答速度を考えてOLEDを選びました。部品を選定した当時,OLEDは他のディスプレイと比較して,少し高価でした。それでもピーターと私は,視認性と応答速度を重視すべきだと判断し,OLEDの採用に至りました。
また,今回はオープニング画面とスクリーンセーバー画面をカスタマイズできるようにしました(最大16プロジェクト)。電源を入れたときに,自分の好きなアーティストの名前や,ロゴが表示されれば,特別感や愛着が増すと考えたからです。これは,SPのカスタマイズ文化に貢献できる機能のひとつだと考えています。
新たなエフェクト
新しいエフェクトについて教えてください。
白土:新しいエフェクトには,ピーターのアイデアが多く含まれています。
ピーターと私が新しいエフェクトを開発するときによく話し合ったことのひとつは,その新しいエフェクトがどんなジャンルの音楽に合うのか,そしてユーザーにとってどんな価値を生み出すのかということでした。
もちろん,Vinyl SimulatorやCassette Simulatorのような,Boom Bap/Lo-Fi Hip-Hopに合うような温かみのあるエフェクトは必要だと考えていました。また,今回,SP-303で人気を博した303 Vinyl Simのリバイバルも盛り込みました。
SPユーザーの多くは,パフォーマンスをブーストさせるエフェクトボックスとしても考えているため,その期待に応えたいと思っていましたし,SPの開発チームは若くて冒険的で,常に新しいことやユニークなことに挑戦する意欲がありました。ーピーター・ブラウン
Peter Brown
2000年代半ば,エレクトロニカとヒップホップが融合し,Prefuse 73のようなIDMヒップホップが生まれました。こうした実験的なビートを作り出すエフェクトとしてResonator,To-Gu-Ro,Ha-Douなどがあります。
ピーター:DJFX Looperのように,ほとんど全てのSPユーザーが使用する傑出したエフェクトもあります。私たちは,新しいアイデアと以前のアイデアを組み合わせてブラッシュアップし,さらにローランドの他の製品から選りすぐったエフェクトも追加しました。SPユーザーの多くは,パフォーマンスをブーストさせるエフェクトボックスとしても考えているため,その期待に応えたいと思っていましたし,SPの開発チームは若くて冒険的で,常に新しいことやユニークなことに挑戦する意欲がありました。
エフェクトのインスピレーション
新しく追加したエフェクトについて,いくつか詳しく教えてください。
ピーター:Cassette Simulatorに関して言えば,私が住んでいるブルックリンでは,たくさんのアーティストやバンドがカセットのみで音楽をリリースしているのを目にします。ボロボロになったカセットテープには,何か不思議な魅力があります。昨今,VSTとしてテープ・エミュレーターが普及したことで,このサウンドに簡単にアクセスできるようになりましたが,どれもパフォーマンスには向いていません。私たちは,ユーザーが特定のカセットテープのモデルを選択するよりも,カセットテープを使う理由の本質を捉えたかったのです。
Resonatorの開発は,非常に興味深いものでした。左側の上から2番目に配置されているエフェクトです。ここに配置されるエフェクトは,ピッチに関連したもので,製品毎に毎回異なります。私と白土は,その時の時代に応じた新しいピッチエフェクトは何かを議論しました。その当時,私と白土は,Second Womanのような実験的なテクノを一緒によく聴いていて,Karplus-Strongストリングシンセシスと思われる特徴的なサウンドに気づきました。このテクニックは,物理モデリングや共振系のエフェクトによく使われます。
ボロボロになったカセットテープには不思議な魅力があります。私たちは、人々がカセットを使う理由の本質をとらえたかったのです。ーピーター・ブラウン。
Peter Brown
ピーター:白土と一緒に様々なResonatorのプロトタイプを作りました。最終的には,いくつかの仕掛けを施したコードバンク・アプローチに落ち着きました。どんなものからでもハーモニーの素材を作り出すことができる特徴的なエフェクトなので,自分にあった使い方を探索することが良いと考えています。
シンガーソングライターのユーザーがバックトラッカーとしてSP-404を使うことあります。そこで,SP-404MKIIにはMIC/LINE入力の他に,ギターインプットに対応し,更にVocoder,Auto Pitch,Guitar Amp Simなど上記の様なユーザーにもフレキシブルに使えるエフェクトを搭載しました。
サンプリング・エンジン
新しいリサンプリング・ワークフローではどのようなことを考慮しましたか?
白土: SP-404SX/A※には,パターンシーケンサーの再生音をリサンプリングできないことが,ユーザーからの不満として多くありました。しかし,16年前のCPUでは技術的に限界があり,その当時は実現することができませんでした。私は,この技術課題をなんとか解決したいと思い,新しいサンプリング・エンジンの開発に着手しました。アーキテクチャーを一から見直し,システム全体を最適化することで,最大同時発音数:32音をシーケンサーで再生しながらリサンプリングすることに成功しました。また,当社独自の技術であるVariPhrase(VP-9000, V-Synthに搭載)のアルゴリズムをベースに改良を加え,低コストのCPUでも負荷を最小限に抑えつつ,高品質にタイムストレッチすることが可能となりました。
※SP-404Aは国内未発売モデルです
しかし,パターン・シーケンサーをリサンプリングすると,パターンを選択した後,それをパッドに割り当てて録音しなければならず,操作が1つ増えるため,ワークフローが少し複雑になりました。なんとかこの問題を解決したいと考え,そこで思いついたのが,Fantom-S/X/GTワークステーション・シンセサイザーで採用されているスキップ・バック・サンプリング技術でした。この機能が実装されたことで,25秒(システム設定で最大40秒まで可能)という制限はあったものの,リサンプリングのワークフローは劇的に簡素化されることになりました。
スキップ・バック・サンプリング
スキップ・バック・サンプリング,アジャスタブル・クォンタイズ,パターン・チェインは,どのように考えられたですか?
白土: これらの機能は,お客様からの要望ではありませんでした。アーティストからのフィードバックをもとに,開発プロセスの後半に追加されたものです。SP-404MKIIのプロトタイプが完成してからは,Matthew “Recloose” ChicoineとDaniel Leeが中心となって,戦略的なマーケティングを推進しました。
彼らが長年築いてきた世界中のアーティストとの強い関係性のお蔭で,SPカルチャーに偉大な影響力を持っているFlying Lotus,DIBIA$E,Just Blaze,Ski Beatz,Lightfoot等からフィードバックをもらい,MKIIは更に進化しました。彼らのフィードバックには非常に感謝していますし,彼らがいなければ,MKIIはこのレベルまで進化することはなかったと思います。
ベータテストを開始した時,アーティストからのフィードバックは非常に好意的できた。しかし,よりカジュアルなサンプラーとして,PCを起動せずに曲のアイデアをすぐに保存できる機能が欲しいという要望もありました。そこで,サンプリングを簡略化し,SPをより使いやすくするために,“スキップ・バック・サンプリング”を追加しました。
“パターン・チェイン”を使うと,パターンを組み合わせて楽曲を制作することができます。これはパターン・シーケンサーが使いやすくなったからできることです。”アジャスタブル・クォンタイズ “もSP-404SX/Aにはなかった新機能です。OLEDディスプレイにより,クオンタイズの度合いを可視化できるようになりました。
サンプリング・エンジンのアーキテクチャーを一から見直し,システム全体を最適化することで,最大同時発音数:32音をシーケンサーで再生しながらリサンプリングすることが可能になりました。ー白土 健生
Takeo Shirato
Bus Fx: アナログ・インスピレーション
Bus Fxのきっかけは?
白土: SPをお使いのお客様の中には,複数のSPをお持ちの方もいらっしゃいます。そのようなお客様は,SP-404SXの後にSP-303を接続し,複数のエフェクトを同時にかけることがあります。例えば,SP-404SXでDJFX LOOPERなどのパフォーマンス系エフェクトをかけ,SP-303でVINYL SIMやCOMPRESSORなどのエフェクトをかける。BUS FXでは,この組み合わせがSP-404MKII1台で可能です(最大4エフェクトまで接続可能)。ただ,エフェクトのノブが3つしかないので,BUS FXのワークフローを開発するにあたって,ピーターと試行錯誤を繰り返しました。
BUS FXは,私自身のDJとしての経験からもインスパイアされました。DJをするときに,EQUALIZER,FILTER,DELAY,REVERBを組み合わせてDUB処理のようなパフォーマンスをすることがあります。私は,DUBのレジェンドサウンドエンジニアであるKing TubbyやLee Perryのスピリットからもインスパイアされ,複数のエフェクトの組み合わせによって新たなサウンドを生み出すシステムを実現することができました。複数のエフェクトを同時にかけることができれば,パフォーマンスの幅が広がり,原曲とは違うビートを作り出すことができます。また,ハッピーアクシデントが生まれる確率も高まります。
ピーター:優先度の高い要求仕様は,複数のエフェクトを同時に使えるようにすることでした。白土と私は,本来のUXを阻害しない方法を実現するため,検討に多くの時間を費やしました。エフェクトを素早く操作することは,多くのSPユーザーにとって中核となる要素なので,それを妨げたくはありませんでしたが,私は,アナログ・ミキシングデスクやミックスエンジニアからのインスピレーションを得て,BUS FXシステムを開発しました。サンプル毎にエフェクトバスにルーティングすることができ,バス毎に異なるエフェクトを設定することができます。ユーザーはBUS FXボタンをタップするだけで即座にエフェクトを切り替えることができ,ルーティングもシリアルからパラレルに変更できます。
SPを複数台使って実験的な電子音楽をスムーズにミックスしているアーティストを見た時,インスピレーションを受け,DJモードの発想に至りました。
ー白土 健生Takeo Shirato
DJモードのインスピレーション
SP-404MKIIの新たな演奏方法であるDJモードは,どのように開発されたのでしょうか?
白土:COVID以前は,ナイトクラブやライブハウスによく足を運んでいました。ある時,SP-404SXを2台とDJミキサーを使って,フェードイン/フェードアウトさせながら,楽曲を交互にミックスしているアーティスト(RAMZA,duenn)を見かけました。一般的に,SP-404SXを使ったDJミックスは,全てカットイン/カットアウトになってしまいます。しかし,彼らは,SPを複数台使ってより実験的なエレクトロニック・ミュージックをスムーズにミックスしており,私は彼らのアプローチからインスピレーションを受け,DJモードの発想に至りました。
新開発のサンプリング・エンジンにより,BPMの自動解析と高品質なタイム・ストレッチができるようになりました。これによりターンテーブルの様な振る舞いを再現させることができ,SP-404MKII 1台で複数の楽曲をミックスができるDJモードを実現しました。プラッター使ったスクラッチなどパフォーマンスはできませんが(エフェクトでの模擬は可能),DJプレイに必要な最低限の機能は備えています。SP-404MKIIのDJモードは,時にハウス,テクノ,アンビエントなどのミックスや,フェードイン/フェードアウトのスタイルを持つエレクトロニック・ミュージックに最適です。
木製のDJコントローラーにはどのようなストーリーがあるのですか?
白土:私はINTERSPECIES RECORDSという,オーガニックとエレクトリック,アナログとデジタルの融合と進化をテーマにしたレーベルに所属しています。このレーベルのメンバーと一緒に,木製のDJコントローラーを開発しました
レーベルに所属しているアーティストから,ジャンルの枠にとらわれない姿勢に大きな影響を受けました。SP-404MKIIの開発には,このレーベルでの経験が活かされています。実際に,DJモードのUIは,木製のDJコントローラーからヒントを得ています。
今まで出会ったことのない新しい文化や音楽に出会ったときの衝撃を感じたいという思いは,今も変わっていません。私の場合,おそらく死ぬまで,ずっと追い求めるのだと思います。ー白土 健生
Takeo Shirato
燃え続ける炎
新たに開発されたSP-404MKII Appはユーザーにどのように役立つと思いますか?
白土:昨今,レコード盤からサンプリングすることは少なくなってきていて,サンプル配信サイトからサンプルを購入して自分の楽曲に使う方が多いと思います。実際に私もそうしています。そこで,PCに保存してあるオーディオサンプルを如何に簡単にSP-404MKIIに取り込めるようにするかを考えました。これまでの一般的な製品では,USB AUDIO/MIDI通信とサンプルファイルの転送(ストレージモード)を同時に扱うことができず,電源を入れ直したり,モードを切り替えたりする必要がありました。しかし今回,USB AUDIO/MIDI通信とファイル転送を同時に行えるUSB通信方式を新たに開発し,シームレスなワークフローを実現しました。
また,DAWからSMFファイル(.MID)をインポートし,SP-404MKIIで再生することができ,逆にSP-404MKIIで作成したパターンデータをSMFファイルとしてDAWにエスクポートすることもできます。
更に,従来のSP-404SX/Aのプロジェクトファイルをインポートして,これまでと同じように楽しむこともできます。
あなたはレコード・コレクターであり,DJとしてイベントも主催していますね。音楽への情熱はどこから来るのですか?
白土:それは,今の私を形成した当時の体験をもう一度味わいたいからだと思います。10代,20代の頃,毎日のようにレコード屋に通い,たくさんのレコードを掘り,毎週末はナイトクラブで踊りDJをし,たくさんの音楽を聴き,そこからたくさんの影響を強く受けていました。その時の感覚は今でも脳裏に強く焼き付いています。
正直なところ,年齢を重ねる毎に自分の感覚が鈍ってきているので,再びあの頃と同じ体感するのは難しいと思います。しかし,今まで出会ったことのない新しい文化や音楽に出会ったときの衝撃を感じたいという思いは,今も変わっていません。私の場合,おそらく死ぬまで,ずっと追い求めるのだと思います。最後に,SP-404MKIIという楽器を通して,お客様が,今まで経験したことのない新しい文化や音楽に出会うきっかけになれば,嬉しい限りです。