音楽教育は、その音楽自体が変化していくように、新しい世代の学習者に届くよう、常に変化し成長しています。バークリー音楽大学は80年以上にわたり、世界最大のコンテンポラリー・ミュージックの大学としてその存在を示しています。その間、様々な音楽ジャンルが現れては消え、音楽技術は無数の革新を遂げてきました。2025年、この学校ではサンプリング・フォー・ミュージック・プロダクション・アンド・パフォーマンスというコースを開設しました。「サンプリング、ループ、エフェクトなどのSP-404MKIIの基本スキルを、実践的な授業と実習を通じて教える」ことを目的としています。デトロイト芸術高校の電子音楽教育課程やカリフォルニア大学バークレー校のサンプル・モード・コースなど、同様の授業が登場していることから、同校の学術的な意義が増しています。 ジャマイカ・プレインを拠点とする講師兼アーティストのDavid Bellow(別名Lightfoot)は、ローファイ・コミュニティで高く評価されている人物で、これまで数多くのビート、ビデオ、レコードを制作しています。彼とエレクトロニック・プロダクション・アンド・デザイン学科長のMichele Darlingが、この画期的なカリキュラムをつくり実施した経緯とともに、この授業が学生に与える大きな役割について説明します。

二人の教育者 — 一つのビジョン
BellowとDarlingは、異なる背景を持ちながらも、人生の長きにわたって電子音楽の愛好者です。「私は長年、電子音楽家であり、プロのサウンド・デザイナーでした」とDarlingはBellowとのZoom会議で語ります。彼女がなぜ方向転換して教授になったか続けてくれました。「音楽教育を発展させることが好きなんだな、と気づいたんです。」
ちょっとしたフラストレーションが彼女の情熱を刺激しました。「私はクラシックのフルート奏者で、DJも始めたのですが、音楽の学習と、その外の世界で経験したことを結びつけることができませんでした。」その隔たりを無くすことが学科長として彼女の現在の目標です。その仕事は、常に学生に対しての基本的な問いに立ち返るのです。「何が彼らの情熱を燃え上がらせ、そして、どうやって生計を立てていけばよいだろう?」と。
一方、Bellowは中学以来、ビートの道を歩んできました。「私はFruityLoops 2のようなソフトウェアを使って、友達と一緒に制作していました」と回想します。「それがきっかけとなってこういった専門教育プログラムに興味を持ち、1年間の集中オーディオ・エンジニアリング課程を修了しました。」
"バークリーは電子音楽家やDJを受け入れ、彼らの居場所をさらに広げています。"
Michele Darling
アーティストとしてのキャリアを追求する一方で、Bellowは同時に教育者としての地位を確立します。10年以上にわたりワークショップで教え、若者向けのプログラムを運営してきたことが、友人のJesse Hanson(別名Bad Snacks)を通じて、人生を変えるきっかけとなりました。「彼女はバークリーの教員でしたが、同時に若いアーティストにとって重要となる、ツアー活動なども行っていました。それで『バークリーにこのポジションがあるんだけど、あなたにもぴったりだと思う』と言ってくれたのです。」
彼は以前からこの名門校を認識しています。「私はボストンに住んでいるので、バークリーの前を何度も通り過ぎたことがありました。」そして「何度かの面接を経て、最終的にMicheleの下で助教授として勤務することになりました。」と語ってくれました。
Darlingは同校の音楽教育のユニークな点について続けます。「私が学科長を務め、Davidが教員である学科の名前はEPD、つまりエレクトロニック・プロダクション・アンド・デザイン学科です。私たちはこのEPDという専攻を提供しており、これは音楽学士の取得につながります。この専攻は、電子音楽プロデューサー、サウンド・デザイナー、ビデオゲームやイマーシブ・サウンド、新しい楽器のパフォーマンス、製品デザインのためのものです。」
バークリーではまた、エレクトロニック・デジタル・インストゥルメント(EDI)パフォーマンスの音楽学士と、エレクトロニック・パフォーマンスの副専攻も用意しており、これらの授業はSP-404やビート・カルチャーに精通した学生に向いています。

"私はボストンに住んでいるので、バークリーの前を何度も通り過ぎたことがありました。何度かの面接を経て、最終的に助教授として勤務することになりました。"
David Bellow aka Lightfoot

初となる404の授業にいたるまで
Darlingは学校にとって今がエキサイティングな時期だと考えています。「バークリーは電子音楽家やDJを受け入れ、彼らのための居場所をさらに広げています。ここには博士やサウンド・デザイナー、Davidのようなサンプリング・アーティスト、そして音楽をテクノロジーで支える業界で最新のソフトウェアを作っている製品デザイナーもいます。」
先進的なバークリーの環境では、DarlingがすでにSP-404をチェックしていました。「新しい技術や新しい楽器の演奏方法に焦点を当てたこの学科では、常にトレンドを探しています。Bad Snacksや教員のDaedelus、Mike Parviziが404を使用していました。私はDavidとMikeが教員のコンサートで404を演奏するのを見て、『これで何ができるのか、どこにフィットするのか』と考えました。」
DAWベースのワークフローや音作り、ニッチなテクニックを教える課程でも、404の授業は新しい領域のようにみえ象徴的でした。「サンプリング・アーティストが新しいわけではありませんが、バークリーで教えることは比較的最近のことです」とDarlingは言い、SP-404を取り入れることの難しさに言及します。「いったい、学生がこの楽器を使って、クリエイティビティと芸術的表現を探求できるカリキュラムとはどんなものでしょう。」
2024年に、Bellowは新しい課程のパイロットとしてEPDエレクトロニック・ミュージック・プロダクション・アンド・サウンドデザインで1週間の夏季集中プログラムの授業を行いました。このコンセプトを試す環境でしたが、すぐにヒットします。「私たちの夏季プログラムは約200人の学生が参加し、とても活気がありました」と、Darlingは語気を強めました。
そこから、SP-404を中心にしっかりとした学術的な枠組みを作ることが課題でした。Darlingは説明します。「秋には、『15週間のコースをどうしよう。学習成果は何か。中間試験や期末試験でのパフォーマンスは何だろう』と問いかけました。」
"いったい、学生がこの楽器を使って、クリエイティビティと芸術的表現を探求できるカリキュラムとはどんなものでしょう?"
Michele Darling
BellowはSP-404MKIIを生み出したローランドの開発チームと自然なつながりがありました。「私の友人DibiaseはLAの素晴らしいプロデューサーで、MKIIが開発されているときにローランドが声をかけていたアーティストの一人でした。彼はこのハードウェアの試奏のことで私に連絡してきました。」
BellowはDibiaseを通じて、ローランドのプロダクト・マネージャーであり、長年のアーティストであるMatt Chicoine(別名Recloose)と、開発リーダーの白土健生と出会いました。「私たちはMKIIでのやり取りを通じて、関係を繋げていました。」
BellowとChicoineは404を利用した教育の機会について頻繁に話し合いましたが、バークリーで新しいポジションに就いた後、プロジェクトは急速に進展しました。「MicheleとMattは自分たちのやり方で、その話を押し進めました。適切な場所と時間を確保するために、バークリーの人たちと何度も話し合いました。」

"ギター・ラボや、他の楽器のラボで、みんなが一緒にジャム・セッションをしているような感じかな。まるで、もう一つの言葉を持ったようです。"
David Bellow aka Lightfoot

教室にて
授業は2025年春からスタートし、すぐに満員になりました。ローランドから提供されたSP-404MKIIが部屋いっぱいに並べられ、ビートに貪欲な学生たちが集う、バークリーのワークショップ・スタイルを象徴するような環境です。「ギター・ラボや、他の楽器のラボで、みんなが一緒にジャム・セッションをしているような感じかな。まるで、もう一つの言葉を持ったようです。」とBellowは説明します。
典型的な授業では、Bellowが指導を行い、その後学生が自分で創作し、最後に成果を共有するために再び集まります。「私が少し教えるたびに、彼らはまたすぐに手を動かしたがるんです。最高じゃないですか。」
Bellowが新しいアプローチや考え方を推すにあたってSP-404の柔軟性は、その自由な発想の土台となります。「この楽器を分析するのは非常に興味深いですよ。どんな創作をするにしても誰もが簡単に扱えます。」
実際、Bellowが他のクラスで知り合った学生は、ラボでさらに成長し、その進歩に驚かされています。「彼らはとても意欲的です。」と語ります。「このハードウェアに向き合うことで、彼らの別の一面を見ることができます。」
Bellowのスタイルは彼の音楽哲学を伝える一方で、学生が自分自身の考えを持つことも望んでいます。「私はいつもブーム・バップ・ヒップホップのようなものを持ちだすのですが、彼らは目を輝かせ、『なるほど、どう自分好みに仕上げたらいいか分かるよ』と言ってくれるのです。」
"彼らはとても意欲的です。このハードウェアに向き合うことで、彼らの別の一面を見ることができます。"
David Bellow aka Lightfoot
学生のストーリー
サンプリングを用いた音楽制作とパフォーマンスで、強烈な体験をしたバークリーの学生の一人が、アルゼンチン出身のギタリストであり、新進のプロデューサーであるMars Miltonです。大学がこのコースを発表したとき、彼は真っ先に申し込みました。春休みの中、マイアミから語ってくれました。「あやうくパニックになるところでしたよ。数席しかないのを見た瞬間すぐに申し込みました。その速さはミリ秒単位でカウントできたと思う。」
そう話しながら、MiltonはさりげなくSP-404MKIIを持ち上げて見せてくれました。「信じられないですよ。バークリーで教える前から、David Lightfootはプロデューサーとして知っていました。彼はサンプリングやテクノロジーを駆使する、本物の重鎮の一人です。」
Bellowの授業スタイルは、Miltonにとても合っているようです。「私たちはワークフローを分解するために、さまざまなアプローチをとりました。その違いが音楽を組み立てる道具を生みだします。Lightfootの好きなところは、具体的なやり方を教えてくれないところで、道具だけを与えて『さあ、料理を始めよう』と言うのです。」
精力的なMiltonは、Wally’s Jazz Clubで隔週イベントを行っています。「ボストンで最も古いジャズクラブなんですが、絶え間なく運営されつつ、黒人が所有しているのが素晴らしいですね。」と熱弁してくれました。新世代の学生たちと際限のないクリエイティビティを思い描きながら、Miltonは自身のイベントで心地よい雰囲気を楽しんでいます。
「バークリーのトップ・ミュージシャンのようにさまざま構成を組み合わせ、目の前に集中して、ファンキーに、グルーヴィーにしていくのです。」スタイルは常にリズムに焦点を当てていますが、Miltonはステージ上で様々なツールも使用します。「私はギターを弾きますが、シンセとSPも持ち込みます。」

"SP-404の授業に座っていることがどれほど歴史的で重要な出来事かと考えると、涙が出そうです。本当に感動的でした。
Mars Milton

エンゲージメントと成果
Miltonがステージ上でスタイルを融合させる一方で、Bellowは彼のクラスが成長し、DAWベースのワークフローとSP-404の即興性をそれぞれうまく活かしていることを実感しています。「簡単に大きなエコシステムの一部になるのです」とハードウェア・ベースの音楽制作に言及しました。「パフォーマンスをするときにいつもと異なる感覚を与えてくれます。学生たちは404の授業でそう感じているのではないでしょうか。」
Darlingはパンデミックの終息で、実社会の交流にシフトしたことがこの活力の一因だと考えます。彼女は語りました。「私たちは再びお互いと関わろうとしていると思います」「音楽を作り、音楽を共有し、お互いを刺激するためにコミュニティで何をしたらよいのでしょう。きっと、この楽器が中心になってくれますよ。」
生粋の指導者であるBellowは、自分の役割は次のクリエーターたちを育てることだと信じています。「私の仕事は決して落胆させることではなく、常に励ますことです」と彼は言います。「本物のアーティストになるための質問があるのならば、ここはそのための場でもある。」
404の授業は、独立したアーティストとして過ごしていくための、幅広いディスカッションをするきっかけにもなります。「このツールの使い方を教える場であると同時に、それ以上に意味のあるものでもあります。私がどこで、何をしてきたかということは、私の教えている内容やその教え方にも影響を与えています。」
Miltonにとって、この経験は人生を変えたというほかないでしょう。「SP-404の授業に座っていることがどれほど歴史的で重要な出来事かと考えると、涙が出そうです。本当に感動的でした。」と語ってくれました。