Roland JC-120:クリーン・トーンの革命
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Roland JC-120:クリーン・トーンの革命

1975年の発売以来、クリーン・トーンを代表するアンプ、Roland JC-120。挑戦的なルーツから現代に至るまで、その歴史を紐解いてみましょう。

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聴けばすぐにそれと分かる、クリーンで威厳のある、純粋かつパワフルなサウンド。多くの人を魅了してやまない、美しいステレオ・コーラス。過去半世紀にわたって生まれた多くの名盤から、そのサウンドは聞こえてきます。Albert KingやAndy Summers、Limp BizkitのWes Borlandなど、世代やジャンルを超えて愛用されるそのアンプは、日本で生まれ、世界中でその姿を見ることができます。基本設計を変えることなく1975年から今まで継続して生産され、透き通るようなクリーン・サウンドの代名詞としてギター・アンプのベンチマークとなっているJC-120は、ステージに運び込まれる白いキャンバスのような存在です。

開発の歴史

JC-120の開発に反骨的な精神が込められていることは、さほど驚きではないでしょう。2022年に創立50周年を迎えた電子楽器ブランドのRolandは、創業当初から画期的な製品を世に送り出しています。1974年に不朽の名機「RE-201 Space Echo」を発表し、その翌年には「JC-120」でアンプの常識を塗り替えました。しかし、真空管のスタック・アンプが絶対的だった当時の音楽シーンを考慮すると、このアンプの存在は明らかに異端児でした。

透き通ったクリーン・トーン

ソリッド・ステートのコンボ・アンプであるJC-120は、まだトランジスタのサウンドが広く認知されていない時代に開発されました。しかしRolandは、真空管を使用していないことを逆手に取り、チューブ・アンプでは実現できない、ピュアで透き通る様なクリーン・サウンドを実現したのです。モデル名である「JC=Jazz Chorus」にも、そのサウンドの意図が込められています。

「Rolandは、真空管を使用していないことを逆手に取り、真空管では実現できない、ピュアで、透き通る様なクリーン・サウンドを実現したのです」

新たなシーン

JC-120はリリースされて間もなく、あらゆるジャンルにマッチするアンプとして音楽シーンを席巻しました。それは、ある種の固定観念に囚われていた当時のアンプ・シーンの行き詰まりを吹き飛ばすものでした。「JC-120は、ギター・カルチャーがたくさんの『禁則事項』を抱えていた時代を抜け出すきっかけとなるものだった」と、The SmithsのJohnny Marrは語ります。「当時このアンプを使うことは、とても特別でエキサイティングだったよ」

MarrはJC-120が、彼の生み出すきらびやかな音の核であり、自身のサウンドの進化にきわめて重要な役割を果たしたと感じています。「クリーンでコーラスの効いた音は、僕のサウンドの大きな部分を占めているからね。機材によって演奏スタイルが影響を受けることはよくあるけど、僕はこのアンプに出会えて幸運だった」JC-120は、彼の熱狂的なファンにとっても、興味の対象であり続けています。「面白いのは、たくさんの年月が経った今でも、子供たちがJC-120の使い方を尋ねてくることだ。彼らもあの音が好きなんだね」

Johnny Marr, Photo by David Lee
Johnny Marr, Photo by David Lee (Creative Commons)

「JC-120は、ギター・カルチャーがたくさんの『禁則事項』を抱えていた時代を抜け出すきっかけとなるものだった。当時このアンプを使うことは、とても特別でエキサイティングだったよ」

画期的なコーラス

JC-120を語るうえで、ステレオ・コーラスの素晴らしさについて触れないわけにはいきません。1975年当時、コーラスはブティック・レコーディング・スタジオのみが持つ専売特許であり、アンプの中にコーラスを内蔵するという発想は全くありませんでした。今でもなお、JC-120に搭載された「空間合成コーラス」は、他の追随を許さない優れた特徴となっています。

JC-120のコーラスが際立って聞こえるのは、Rolandのエンジニアの優れた技術のほかに、大きな設計上の理由があります。ギター・サウンドに豊かさと壮大さを与えるコーラス・エフェクトの定義は、ドライ音と、ピッチやタイミングを微妙にずらしたウェット音の信号を混ぜ合わせることにありますが、JC-120はそれぞれの信号を個別のスピーカーで鳴らし、空間上で混ぜ合わせることで立体的なコーラス・サウンドを実現しているのです。

プロデューサーのStave Levine(Culture Club、 The Vapors)は、このアンプをレコーディング・スタジオの必需品として称賛しています。「高品位なサウンドをレコーディングする場合は、豊かなコーラス・サウンドを備えたJC-120が最適」と言います。

「高品位なサウンドをレコーディングする場合は、豊かなコーラス・サウンドを備えたJC-120が最適」

「JC-120は、覚えている限りずっと…たぶん発売されたその日から、自分に欠かせないアンプ・コレクションの1つだ」

Two in One 

現代のコーラス・ペダルの中にはステレオ出力を持つものもありますが、最大限の効果を発揮するには通常2台のアンプが必要です。JC-120の優れた特徴は、それ1台で同様の効果が得られることです。2つのスピーカーのポテンシャルを最大限に引き出すために2つのパワー・アンプがそれぞれ60Wを供給しており、片方のスピーカーからウェット音が、もう片方のスピーカーからドライ音が出力されることで、空間を大きく包み込むコーラスが生まれるのです。

「突然、コーラスがギター・サウンドの新しい要素になって、誰もがそれを必要とするようになったんだ」と、Policeのギタリスト、Andy Summersは当時を振り返ります。1983年に大ヒットした「Every Breath You Take」など、彼のサウンドにはしばしばJC-120のコーラスが使われています。「壮大できらめくようなコーラスの音が、ライブの大規模な音響システムからステレオで流れるんだ。最高だったよ」

JC-120とギタリストは、分かつことのできない関係であり続けています。「JC-120は、覚えている限りずっと…たぶん発売されたその日から、自分に欠かせないアンプ・コレクションの1つだ」Summersはまた、1986年のGuitar Player誌で、このアンプが彼の愛するギター・シンセサイザーと相性が良いことにも言及しています。

Andy Summers, Photo by Acroterion (Creative Commons)

「その音に魅了されてしまったんだ。これほどまでに純粋で美しいサウンドはそれまで聞いたことがなかった。すべての音に、きらめくような透明感があった」

世界初のコーラス・ペダル

JC-120がリリースされた1975年当時、単体のコーラス・ペダルは存在しませんでした。1976年にBOSSがJC-120のコーラス機能を抜き出し、ペダル型エフェクターとしてCE-1 Chorus Ensembleをリリース。記念すべきBOSS初のエフェクターであると同時に世界初のコーラス・ペダルでもあり、CE-2に続くBOSSのコーラス・エフェクターの始まりとなりました。これらのエフェクターは定番機として、オリジナルであるJC-120のコーラスの素晴らしさを証明し続けています。

時代を超える魅力

70年代、数多の音楽シーンが生まれる中で、千差万別のジャンルが瞬く間に登場し、そして消えていきました。しかし、多くのアンプが時代の流れに押し流されていく中、JC-120は常に第一線で使われ続けました。ロックン・ロールの時代にも、新進気鋭のプレイヤーたちに自身のサウンドを発見する機会を与えたのです。

プログレッシブ・ロックの巨匠であるAdrian Belewは、1977年にとある集まりでふとJC-120のサウンドを耳にし、すぐに使うことを決めました。「その音に魅了されてしまったんだ」と、彼は当時を振り返ります。「これほどまで純粋で美しいサウンドは聞いたことがなかった。すべての音に、きらめくような透明感があった」その後、Frank Zappaの「Sheik Yerbouti」、David Bowieの「Lodger」、Talking Headsの「Remain in Light」、King Crimsonの「Discipline」など、数々の著名なアルバムでこのアンプを使用することになります。

 

 

CE-1 Chorus Ensemble, Photo by dehlimusikk

「JC-120の、12インチ2発のスピーカーという組み合わせから生まれるコーラスのかかり具合、これが最高なんだ」

JC-120を愛する一流のギタリストたち

文献上で、Adrian BelewとThe Cultのリフの達人、Billy Duffyを繋ぐものは多くはありません。シンガー・ソングライターのJeff Buckleyと、MetallicaのJames Hetfieldの間に共通のバックグラウンドを見つけることも難しいでしょう。しかし彼ら全員が、JC-120のサウンドを好んでいるという共通点を持っています。Hetfieldはこのアンプを「永遠の相棒」と称し、「Welcome Home(Sanitarium)」や「One」の中でクリーン・トーンに活用しています。

DuffyはJC-120の愛好家であり、「Love」や「Sonic Temple」といった豊かなサウンド・バリエーションを持つアルバムの中で、ピュアなサウンドを得るために用いています。「チューブ・アンプと使い分けて、クリーン・サウンドが出したい時はJC-120を使っているんだ。コーラスがとても美しいからね」とDuffyは語ります。その他のJCシリーズも試しましたが、最終的にJC-120に落ち着きました。「JC-120の、12インチ2発のスピーカーという組み合わせから生まれるコーラスのかかり具合、これが最高なんだ」

「シューゲイザーの愛好家はJC-120を、Slowdiveのサウンドに代表される、このジャンルに不可欠な渦を巻くサウンドを生み出せる典型的なアンプと評価しています」

不朽の人気

このアンプは様々なプレイヤーにインスピレーションを与え、The VaccinesのFreddie Cowanや、The NeighbourhoodのJeremy Freedmanなど、現代においても使い手は増え続けています。シューゲイザーの愛好家はJC-120を、Slowdiveのサウンドに代表される、このジャンルに不可欠な渦を巻くサウンドを生み出せる典型的なアンプと評価しています。JC-120は使用者の演奏の幅を狭めることなく、どのようなジャンルにも対応し得るのです。

JC-120は発売から半世紀が経過した今でも、その名声と独自性を失っていません。JC-120のスイッチを入れれば、12インチのツイン・スピーカーから生まれる不朽のコーラス・サウンドが、1975年当時と何ら変わらない形で聞こえてきます。クリーン・トーンの王様は今もなお健在で、そしてこれからも活躍するでしょう。

JC-120 Jazz Chorus
Roland 50th Anniversary
Limited Edition

Henry Yates

A prolific journalist and copywriter, Henry has written for NME, Guardian, Telegraph, Classic Rock, Total Guitar, and many other outlets.