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ローランド・エンジニアリング:SP-404 の過去、現在、そして未来

オリジナルの SP-404 設計者である山田謙治氏と、現在のプロジェクト ・リーダーである白戸健生氏が、そのコンセプトや幅広く支持される理由を語ります。

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SP-404が生まれ、それを取り巻くこの20年はとても躍動的なものでした。2005年のデビュー以来、SP-404はライブ・パフォーマンス、ヒップホップ、そしてさまざまなビート ・カルチャーに根付いてきました。Roland TR-808、TR-909、TB-303の誕生、その後一連のムーブメントを生み出したのと同じように、今まさに手に取れるSPが、ローファイやその他ジャンルの先駆けとなりました。それらのヴィンテージ楽器とは異なり、404はリリースさなかで人気を博し、毎年拡大し続ける熱狂的なファン層を獲得します。404の機能とその可能性は、ファンたちとともに進化をし続けています。

コンセプト   

SP-404、MKII、SXの当初の製品コンセプトと計画はどのようなものでしたか?   

山田 : SP-404は当時定番となっていたSP-303の継承、SP-404SXではSP-404の継承に加えサンプル容量の拡大と音質の改善がコンセプトとなりました。 

白土 : SP-404MKIIの初期の製品コンセプトはSP-404のフォーマットとワークフローをキープすることです。それを維持しつつユーザーがあっと驚くような劇的な進化を示すことを意識して開発を進めました。SP-404SXから12年がたっているので、豊富に蓄積されたユーザー・フィードバックを分析し、本当に重要なものを見定める必要がありました。すべてのアイデアを盛り込むと膨大になりすぎるため、山田さんに何度も相談しながら開発を進めました。また、SP-404SXによってビートメイカーのSPユーザーがかなり増えたため、そこへのアンサーや恩返しとしてMKIIを出したいという思いも強く持っていました。

山田 : SP-404では表立っては言っていませんが、カスタマイズ要素を盛り込めないか、は密かに考えた案件です。

白土 : SP-404Lo-Fi Hip-Hopというイメージが強かったですがSP-404MKIIもっと色々な音楽ジャンルの人に知ってもらいたい使ってもらいたいという想いで開発をしました。音質やエフェクトもHouse/Technoやそれ以外の電子音楽にもマッチするように作られています。SP-404MKIIという楽器を通してお客様が今まで経験したことのない新しい文化や音楽に出会うきっかけになれば嬉しい限りです。

導きの光 

エンジニアとしてのキャリアにおいてメンターは誰ですか?(Rolandあるいはそれ以外)  

山田 : 入社後初めて開発部に配属された際の部長です。とても温かみのある人柄で開発をリードしていました。まだ若い私に色々なチャレンジの機会を与えてくれたり、製品開発において意見を求めてくれたり、開発における姿勢を最初に見せてくれた方です。  

白土 : SP-404MKIIの開発中は、たくさんのメンターにお世話になりました。
中でも山田さんには様々な相談をしました。なぜSP-404のオリジナルではこのような設計になっているのか。それを変えても良いのか、変えるべきではないのかなど。彼が当時決めた仕様の一つ一つのストーリーを説明してくれたお陰で、変えても良い部分が明確になったことを覚えています。 

また、SP-404MKII開発当時の部署の上司である山里さんや蓑輪さんにもたくさんのアドバイスを頂きました。企画の考え方やプロモーションの在り方、ビジネスの考え方など、当時の私にとっては非常に価値のあるアドバイスでした。 

"SP-404の開発を通じて自分の音楽的興味が広がった気がします。"

404の波に乗る    

SP-404と現代のビートカルチャーにおけるその位置付けについてどう思いますか—これほどの人気を得ると思っていましたか?  

山田 : 全く想像していませんでしたし、404dayとして皆さんが祝ってくれるなんて全くイメージになかったです。

白土 : 私がSP-404の存在を知った当時(2005年)、正直、これほどの人気を得ると思っていませんでした。世間では、DJの補助的なツールという認識があったと思います。 

私がSP-404の新たなコミュニティを意識し始めたのは2010年頃だったと思います。当時、『remix』や『ele-king』といった日本の音楽雑誌がLow End TheoryやBrainfeederを特集し、それらの記事の中でSamiyam、Teebs、Ras G、TOKiMONSTAなど、SP-404を使っている海外アーティストの存在を知りました。 その当時、Low End Theoryは年に1-2回ほど日本でツアーをしていて、私は何度かそのイベントに足を運んでいました。中でも一番印象に残っているのは、2012年の代官山UNITでのRas Gのライブでした。中毒性のあるサイケデリックなビートに、Sun Raの楽曲からサンプリングした音が所々に散りばめられ、まるで宇宙空間にいるような感覚に陥りました。彼の神懸かったライブパフォーマンスの衝撃は、10年経った今でも私の脳裏に焼き付いています。このようなビートカルチャーが成長していく過程をリアルタイムに見れたことで、私の価値観が大きく変わりました。 

影響と関心

あなた自身の音楽的興味は、SP-404の開発にどのような影響を与えましたか?  

山田 : 影響的には逆で、SP-404開発を通じて自分の音楽的興味が広がった気がします。私的には楽器とその発音原理に興味が強く、SP-404については「楽器として成り立つためには?」という視点を常に意識していたように思います。

白土 : 過去を遡ると私が初めてローランドのSPシリーズに出会ったのは1999年私が高校生の時に行ったダンスホール・レゲエのイベントでした。当時日本ではMighty Crownを中心としたジャパニーズ・レゲエが流行しておりダンスホールやダブのセレクター(DJ)が曲と曲の間に観客を盛り上げるためのツール(サイレン音やピストル音の再生マシン)としてサンプラー(SP-202/303)を使っていました。またこれは日本特有の使い方かもしれませんがバラエティ番組や舞台演劇の効果音ラジオのジングル等多岐に使われワンショット・サンプラーのスタンダードになりつつありました。 

2000年代大学生だった私は毎週のように地元(茨城県水戸市)にあるレコード店(Vinyl Machine)に通いダンスミュージックで使用されるサンプリングソースの知識を吸収することに生活の殆どの時間を費やしていました。当時はまだShazam(音楽検索アプリ)やDiscogs(オンライン音楽データベース)がなかったため自らの足でレコード店とクラブを往復することで音楽に関する情報を収集し日本の地方都市特有のジャンルレスなクラブカルチャーを体感することで様々な音楽から刺激を受けると共に特にサンプリングをベースとしたHip Hopに非常に影響を受けました。

"過去を遡ると、私が初めてローランドのSPシリーズに出会ったのは、1999年、私が高校生の時に行ったダンスホール・レゲエのイベントでした。"

白土:2000年代前半にMadlibやJ DillaがSP-303のパワー・ユーザーであることを明らかにしまたMadvillainMadvilliany等Hip-Hopの金字塔となるアルバムがSP-303を中心に制作されていることを知った私はSPのビートカルチャーに深くのめり込んでいきました

SNS(インスタグラムなど)の発達によりSP-404(#SP404)を使ったカジュアルでインパクトのある投稿がここ5~6年で劇的に増加し世界中でSPコミュニティが形成されていきました。またサブカルチャー(アンダーグラウンド)からメインストリームに移り変わっていく過程をリアルタイムで見てきました。 

フィードバックを掘り下げる 

そのようなカルチャーから製品の開発に影響を受けましたか? 

白土 : このようにSPシリーズは音楽シーンに多大な影響を与えてきましたし私もその影響を非常に強く受けてきました。したがってSP-404MKIIの開発者としての私の使命は単に機能追加や使い勝手を向上させるだけでなくSPが培ってきた歴史・文化を継承し私自身の経験も生かして次世代のビートカルチャーに進化させることだと考えました。 

私は開発の初期段階で世界中のSPコミュニティにあるほとんど全ての投稿をチェックしていきました。幸いにもSPコミュニティは非常に活発で次の新製品を期待した機能追加や改良の要望が投稿されていました。SP-404(2005年)の発売から16年経過していたこともありコミュニティには膨大な情報が存在していました。 

私はレコード店の棚の端から端までレコードを掘るようにユーザーコミュニティでSPユーザーの要望をリストアップしそれを分析してSP-404MKIIの製品仕様に落とし込んでいきました。 

またピーター・ブラウン(プロダクトプランニングマネージャー)と協力してSP-404のパワー・ユーザーに直接インタビューし製品仕様の方向性に間違いがないことを何度も確認し設計をスタートしました。これは難しいことではありませんでしたが設計のスタート地点に辿り着くまでに多くの時間を費やしました。 

"レコード店の棚の端から端までレコードを掘るように、ユーザーコミュニティでSPユーザーの要望をリストアップし、それを分析して、SP-404MKIIの製品仕様に落とし込んでいきました。"

アーティストのSP-404の使い方で、驚いたことはありますか?  

山田 : サンプルプレイバッカー的な用途が主になると想像していたのですが、思いの外、ドラムプレイ並みにパッドを叩いたり、積極的にEffectを使用してのリアルタイム性のあるパフォーマンスを見られるのは驚きの一つです。

白土 : 私は週末にナイトクラブやライブハウスによく足を運んでいます。ある時SP-404SXを2台とDJミキサーを使ってフェードイン/フェードアウトさせながら楽曲を交互にミックスしているアーティスト(RAMZAduenn)を見かけました。一般的にSP-404SXを使ったDJミックスは全てカットイン/カットアウトになってしまいます。しかし彼らはSPを複数台使ってより実験的なエレクトロニック・ミュージックをスムーズにミックスしており私は彼らのアプローチからインスピレーションを受けSP-404MKIIに搭載されたDJモードの発想に至りました。  また、SP-404は多用途サンプラーとして、特に日本で色々な使われ方をされています。 野球場のファウル等の警告音や選手入場曲、アイドルイベントの拍手や掛け声、ヒーローショウで悪役と戦う時の音、ホストクラブのシャンパンコール等、他にもたくさん。20年の間で様々なタイプのユーザーに使われ、そして、我々が想像もしていなかったような使われ方をされていることに日々驚きを感じております。 

"20年の間で様々なタイプのユーザーに使われ、そして、我々が想像もしていなかったような使われ方をされていることに日々驚きを感じております。"

アップデートで常に新鮮さを保つ 

SP-404とその多くのアップデートについて、設計生産プロセスで直面した最大の課題は何ですか?    

山田 : 担当したSP-404 SP-404SXについて、SP-404はSP-303と、SP-404SXSP-404と、それぞれ同じ操作/フィーリングで同じ演奏表現ができる事課題の一つでした。 

白土 : SP-404MKIIではいかにコストを抑えつつ(SP-404SXとSP-404MKIIを同じ価格帯にして)、大きな進化を見せられるのかということが最大の課題でした。発売から16年も経っていたため原材料の高騰は非常に大きな障壁となりました。これまでと全く同じ構成で設計したとしても、販売価格を上げざるを得ない状態になります。一つ一つ部品を見直しシステム構成も一新して大幅なコストダウンを実現しました。パーツの採用に関してはさまざまなツテを頼りましたし、半導体メーカーの方とも相談を重ねました。SP-404MKIIでは有機ELディスプレイを採用しており、これも高価なパーツです。そこで、社内を駆け回って“この有機EL使いませんか?”と、私がサプライヤーのように別の製品担当へ売り込んだりもしました。あの手この手でコスト面を考慮していった結果、この価格帯を実現できました。

また私自身の能力にも課題がありました。それは英語力です。SP-404MKIIの開発を始める前はほとんど英語を話すことができませんでした。しかし今では私の最大のパートナーであるイタリア在住のソフトウェア・エンジニアと最初は四苦八苦しながら英語でコミュニケーションをとり何とか要素技術開発的にサンプラーの実験を重ねていきました。また、マーケティング担当はアーティスト(Recloose)としても活躍する海外メンバー(Matthew Chicoine)で、海を越えてさまざまなシナジーが生まれたことでSP-404MKIIを実現できました。   

 SP-404の発売以来、最もエキサイティングなアップデートは何だったと思いますか? 

山田 : SP-404MKIIのリリースは私にとってエキサイティングな出来事でした。よもやSP-404後継機種が登場するとは想像していませんでしたし、SP-404/SP-404SXでは実現できなかった事、やりたかった事が可能になっています。 

白土 : SP-404MKII発売後も定期的にメジャーアップデートを実施し、今も尚、進化を続けることです。 SP-404MKIIの発売後も、フィードバックを得るために、貪欲に世界中のユーザーとの直接対話を続け、そこから得られたアイデアをメジャーアップデートとして反映してきました。2022年7月にv2.0. 2023年4月にv3.02024年4月にv4.0、そして、2025年4月(現在)のv5.0 

そして、たくさんのコラボレーター(Stones Throw KDJ Records Koala Melodics Serato etc..)とも、一緒に開発を進めることができたことも非常にエキサイティングな経験でした。 

ローランドと音楽サブカルチャー

SP-404のようにサブカルチャーを発展させているローランドの楽器は他にもありますか?  

山田 : MC-303を最初とするgroove gear群は、テーブルトップ型の電子楽器を演奏するというカルチャーや、そういった楽器群が各社から登場するになった源流だったと思います。

白土 : 私にとってはTR-808/TR-909/TB-303です。もはやサブカルチャーではありませんがこれらの製品がなければ今日の全てのダンスミュージックカルチャーは存在していないでしょう。世界中でナイトクラブでは毎週末のようにこれらの機材の音が一晩中鳴り響き世界中のオーディエンスがこれらの機材の音を浴びています。私の人生を振り返ってもこれほどまで聴いた機材はないと思います。それとRE-201です。ギターエフェクターとして使われるだけでなく私の音楽人生の中で最も影響を受けたDUB MUSICにはなくてはならない機材となっています。RE-201がサブカルチャーを直接生み出したり発展させたわけではありませんが様々な音楽ジャンルにとってなくてはならないものになっています。

アドバイスと実績

楽器エンジニアを目指す人にアドバイスをするとしたら、それは何ですか ?  

山田 : 楽器を作ることがゴールではなく、それを使うお客様が楽器を演奏して楽しみを得る、それを聴く方々がハッピーになれることが大事。様々な方々との対話を行なってその延長線にゴールを持つことがポイントだと思います。

白土 : 一番重要なことは音楽やその背景にある文化その音楽や文化に関わる人に興味を持つことだと思います。そしてその次にその方たちとコミュニケーションを取って多様な価値観を理解しそこから生まれる新たなアイデアを形(楽器を開発する)にする力を身につけることだと思います。     

他に開発したローランドの楽器で、誇りに思っているものは何ですか?  

山田 : Fantom-S seriesです。サンプリングをいかにワークステーションに取り入れ、お客様に使って頂くか、開発チームで議論を重ねながら開発した製品です  

白土 : 2019年に発売したFANTOMです。私がローランドに入社して最初の製品です。私はそれ以前は、インクジェットプリンターやデジタルカメラのハードウェアやFPGAのエンジニアをしていました。FANTOMはワークステーションタイプの多機能シンセサイザーとして複数のカスタムチップと追加チップを組み込んでいるため、非常に複雑なシステムで構成されています。

"楽器を作ることがゴールではなく、それを使うお客様が楽器を演奏して楽しみを得る、それを聴く方々がハッピーになれることが大事。"

白土:しかし、シンセサイザーとインクジェット・プリンターのアーキテクチャーは非常に似ているので、システム全体を理解できるようになるまで、わずかな時間しかかかりませんでした。プリンター開発で培ったスキルを生かし、パフォーマンスを最大化するための改善ポイントを見つけた起動時間の短縮は、プリンターと電子楽器の両方に共通する課題です。プリンターは電源を入れたらすぐに印刷しなければならないし、電子楽器もすぐに演奏を始められるようにしなければなりません。そこで、起動時に大量の波形データをロードする時間を最小限に抑え、FANATOMの性能を最大限に引き出すことができました。 

FANTOMに実装されているサンプラーも私が開発に携わりましたが、非常に興味深いものでした。CPUのリソースが制限される中で、最大限のパフォーマンスを発揮させることに非常に苦労しました。この苦労した経験がなければ、SP-404MKIIの開発に繋げることができなかったと思います。 

Takeo Shirato and Kenji Yamada
音の中で夢を見る  

将来の楽器に対する夢は何ですか?  

山田 : ある程度の不器用さを持っていてほしい。あまりにも進化しすぎると人の入る余地がなくなってしまいます。楽器と人でお互いを補完し合うことで新しい何かが生まれてほしいです。

白土 : TR-808TR-909がHouse/TechnoSP-404Lo-Fi Hip-Hopなどの音楽文化を創造・発展させていったように、楽器によって生み出される新たな音楽文化の創造と発展に、私が死ぬまで貢献し続けたいと考えています。 

楽器から新たな音楽文化やジャンルが生まれ、そこからフィードバックを得て、楽器の技術がブラッシュアップされています。(例えば、SP-404からLo-Fi Hip-Hopカルチャー・コミュニティが誕生し、そこからフィードバックを得て、SP-404MKIIが誕生したように。)それらを繰り返すことで、楽器と音楽文化が進化し続け、音楽を愛する全ての人達の人生を豊かにしたいと考えています。 

Ari Rosenschein

Ari is Sr. Manager, Brand Storytelling Copy and Editorial for Roland. He lives in Seattle with his wife and dogs and enjoys the woods, rain, and coffee of his region.