Rolandがアナログ音源を搭載したリズム・マシンを発売してから約40年が経過した。そこで現れたTR-1000 Rhythm Creatorは、TR-808やTR-909といった名機をも凌ぐ可能性を秘めている。アナログのオーガニックな質感と、デジタルの緻密さを融合し、さらにサンプリング機能や新しいパラメーター、広いダイナミック・レンジを備えたTR-1000は、ジャンルの枠を超えて、音楽家たちが内に秘めたアイデアを描き出すためのキャンバスとなるだろう。
エレクトロの先駆者Egyptian Lover、作曲家・プロデューサーのKaitlyn Aurelia Smith、そして札幌を拠点とするハウスのレジェンドKuniyukiが、ロサンゼルスのElectric Pony StudiosでTR-1000の限界に挑んだ。スクリーンに囲まれたムーディーなスタジオでの撮影後、3人は自身の音楽制作のプロセス、そしてこの楽器の印象やサウンドについて語ってくれた。

Kaitlyn Aurelia Smith
Kaitlyn Aurelia Smithの音楽は、自然の風景や心の内面を思い起こさせるような繊細な作風が特徴。ロサンゼルスを拠点に活動する彼女は、ワシントン州オーカス島出身。モジュラー・シンセを絵筆のように扱い、穏やかで魅力的な音の風景を描き出す。彼女の音楽は、アンビエントからインディー・フォークまで、幅広いジャンルにまたがる。
リズム・カルチャーについて
「人を踊らせてしまう理由は一体何なのか、これはたくさんの解釈があると思います。リズム・カルチャーは、たとえば詩を編むときにはいろんな可能性を探るように、音楽制作でもリズムでそのように情熱を注ぐことを意味すると思います。それに、音楽とダンスが交わる場所、人々の視線が集まる場、音楽というコトバで人をどう躍らせるか、ということも意味するでしょう。」
リズム・マシンについて
「私は昔からポリリズムが好きで、最初にリズム・マシンを使ったときは、複数の機材をセットアップして、異なる拍子やテンポを組み合わせて、それらが交わる点を探していました。慣れに流されず、自分に響くリズムを見つける作業をたくさん行いました。最近では、自分の好きなリズムが、もっと親しみのあるリズムとなるよう、その橋渡しに取り組んでいます。」
「最近では、自分の好きなリズムが、もっと親しみのあるリズムとなるよう、その橋渡しに取り組んでいます。」
Kaitlyn Aurelia Smith

「これ1台で全部そろう。モジュラーやヴィンテージ・シンセをサンプリングして、TR-1000のリズムとミックスできるんです。」
Kaitlyn Aurelia Smith
音楽スタイルについて
「私の音楽スタイルはエレクトロニックです。踊るのは好きだし、自分の音楽で他の人にも踊ってほしいなと思っています。クラシック音楽の経験があり、サウンド・エンジニアでもあるので、サウンド・デザインやクラシックの作曲の心を、制作やボーカル処理に活かしています。クラシック・ギターとオーケストレーションを学び、指揮者になりたいと思っていました。
大学卒業後は、モジュラー・シンセとオーケストラ楽器とリズムを橋渡しするようなチャレンジを始めました。複数のジャンルをクロスするのです。クラシックの世界かと思えば、アカデミックなエレクトロニックの世界観を描く時もあります。ある時にはダンス系のエレクトロニックや、ソングライティングの世界感に没頭することもね。」
TR-1000について
「TR-1000は他のリズム・マシンとは違って、ベース・サウンド、メロディ、ハーモニーまで作れるオールインワンだと思いました。あと、私の声まで処理もできて、コンピューターや外部エフェクトに頼る必要がありません。これ1台で全部そろう。モジュラーやヴィンテージ・シンセをサンプリングして、TR-1000のリズムとミックスできるんです。 初めてTR-1000を使ったとき、すべてが一つに収まっていることにとても興奮しましたし、どれほど自由になったかを感じました。すぐに触発されました。リズムのないレイヤーや雰囲気のあるアトモスフィアを組み合わせてオーケストラ風に仕上げることもできるし、歌のトラックを作ることもできます。」


「アルバム制作でも、まずライブセットを意識して曲を書くことで、創作からライブへの移行がとても自然になります。」
Kaitlyn Aurelia Smith


「私はサンプリング機能にすぐ惹かれました。普段使わないような楽器からリズムを作るのが好きなんです。すぐに気づいたのは、この一台でライブセット全体を構築できる可能性があるということです。さらに、音響や照明、映像との連動も外部出力を使って組み合わせられる。モジュラーへのトリガーや、クロックを使って面白そうなこともできますね。」
「TR-1000は、新しい制作スタイルを生み出しました。まるでアイデアを試すキャンバスのような存在で、それをライブセットにそのまま組み込むことができるんです。アルバム制作でも、まずライブセットを意識して曲を書くことで、創作からライブへの移行がとても自然になります。」
即興演奏について
「パフォーマンスでは、まず曲の構造をしっかり体に染み込ませてから、その上でリラックスして即興を楽しむようにしています。そうすることで、観客と一緒に“今この瞬間”を共有できるんです。
TR-1000は、即興のための音のパレットを作るのが本当に得意ですね。ひとつのサンプルから、さまざまな音や世界を生み出すことができます。ひとつの音から全体の作品を作り上げるのは、とても楽しい体験です。」
Kuniyuki
Kuniyuki Takahashiは、90年代半ばにキャリアをスタートした、札幌出身のDJ/プロデューサー/アーティスト。Forth、Frr Hive、Kossといった別名義や本名で発表された彼の作品は、ダウンテンポ、ダブテクノ、ハウスなど、幅広いジャンルにわたる。その自由な創作スタイルは、機材との向き合い方にも表れており、音楽やTR-1000に対する彼の考え方には深い哲学が感じられる。
リズム・カルチャーとは
「ビートは人間の本能から生まれたものです。アフリカをはじめ、さまざまな文化や国で進化してきました。そういう意味で、ダンス・ミュージックのビートは、私たち人間にとって、とても大切なものだと思います。」
サウンドについて
「私の音楽のベースはダンス・ミュージックで、808や909の影響を受けてハウス・ミュージックを作ってきました。でも、そのサウンドだけにこだわっているわけではありません。ジャズやアンビエントにも挑戦していて、ライブではそれらをすべてミックスして演奏しています。観客の反応を見ながら、その場で音を変えていくんです。」

「ダンス・ミュージックのビートは、私たち人間にとってとても大切なものだと思います。」
Kuniyuki

「TR-1000の厚みのあるアナログ・サウンドは素晴らしいが、その操作性と直感的な使いやすさにも驚かされる。」
Kuniyuki
TR-1000について
「私はアナログ機材と共に育ちました。最近はデジタル・テクノロジーであふれていますが、そのおかげでアナログ技術が持つ価値をより一層感じています。TR-1000のキックの音に初めて触れたとき、創作意欲が湧きました。スタジオ・ユースに完璧です。TR-1000の厚みのあるアナログ・サウンドは素晴らしいが、その操作性と直感的な使いやすさにも驚かされる。これらの要素はパフォーマンスにとって重要です。TR-1000は私に実験的な発想を与えてくれて、オーディエンスにどんなバイブスを届けられるか楽しみです。」
過去と未来について
「14歳、中学生の頃にTR-606を使い始めました。それからもう40年近く続けていますが、いまも自分を信じて続けています。音楽を始めると、リズムや時間、あるいはまったく別の何かに導かれるのです。
The Egyptian Lover
Egyptian Loverはそのビジュアル面も、アートな面も圧倒的な存在感を放つ。本名はGregory James Broussard。ロサンゼルス生まれの、今なおウェストコースト・ヒップホップ史の重要人物。ステージ上では象徴的なゴールドのTR-808を携え、高いリズム・マシンの技を持ち合わせる。Radio CrewやUncle Jamm’s Armyのメンバーとして活動をスタートし、現在もソロ・アーティストとしてエレクトロ・ファンクを繰り広げ、大きな足跡を残している。
リズム文化について
「リズムはあらゆるビートの基礎になる。昔、コンガや木の枝を叩いていた頃からそうだった。音楽を愛する人、つまり世界中のすべての人がリズムを愛している。DJをして、ビートを流し、みんなが熱狂するとき、それが自分にとってのリズム・リズムカルチャーなんだ。」
音楽スタイルについて
「私の音楽スタイルはKraftwerkとPrinceをミックスしたものだ。Princeがやっていたラップの歌いまわしを聴いたとき、『おお、これはいいラップの形になる』と思ったんだ。それをKraftwerkのビートと組み合わせれば、新しいスタイルになる。それこそEgyptian Loverのスタイルで、今までやってきたことだ。」

「DJをして、ビートを流し、みんなが熱狂するとき、それが自分にとってのリズム・リズムカルチャーなんだ。」
The Egyptian Lover

「TR-1000はまさにモンスターだ。1年使っても、知らなかった機能を発見することがあるだろう。」
The Egyptian Lover


リズム・マシンについて
「リズム・マシンは、自分が自分になるためのきっかけとなった。リズム・マシンが登場する前は、友達にドラムを叩いてもらってレコードを作ろうと考えていた。でも『Planet Rock』を聴いたとき、『これはどんなドラム・セットなんだ?』と思ってね。そこである人が『それはリズム・マシンだよ』と教えてくれた。その瞬間、私は必要なものだと確信したよ。それがEgyptian Loverの始まりなんだ。」
TR-1000について
「TR-1000はまさにモンスターだ。1年使っても、知らなかった機能を発見することがあるだろう。TR-1000は10台の808を合わせたようなものだ。サンプリングもできるし、信じられない。たった2週間しか使っていないけど、もうやられたね。スタジオに持ち込んだら、ただただ凄い。これに触れたら、本物のリズム・マシンを持つとはどういうことかがわかるはずだ。」
アナログ・サウンドについて
「TR-1000を初めて演奏したとき、『これだ』と思ったよ。ハイハット、キック、スネア、クラップ、808の音だけでも完璧だ。カウベルをキーに合わせてチューニングもできる。さらに別の音やエフェクトを加えたら、もう最高だよ。」
「私が808をプレイするように、DJがTR-1000をクラブに持ち込んでフロアを盛り上げるのが目に浮かぶ。」
The Egyptian Lover
サンプリングとサウンドについて
「1984年以来ずっと808を使ってきた私にとって、TR-1000で一番ワクワクしたのはサンプリング機能なんだ。サンプリングしてどんな音になるか試して遊びたい。すべての音を試しきるには、少なくとも5年、いや6年はかかるかな。」
クラブでの演奏について
「ハウスビートを作りたいなら909が入っているし、オールド・スクールのエレクトロ・ビートを作りたいなら808が使える。それらを組み合わせて、自分のサウンドも作れる。思いつくことは何でも、このTR-1000でできてしまう。まさにリズム・マシンの未来だ。私が808をプレイするように、DJがTR-1000をクラブに持ち込んでフロアを盛り上げるのが目に浮かぶ。」
